<2025年3月発行 / 27th Edition>

目次 Index
- 特集: CHARM これからの20年
- CHARM 活動レポート1: 受賞報告
- CHARM 活動レポート2: 2024年度医療通訳研修
- CHARMERの紹介: 今号のCHARMERのみなさん
- NETWORK: メモリアルキルト
- HIVと人々: 日本バプテスト病院
- Health: マイナ保険証の利便性とリスク
- 事務局から: 事務局からのご案内(会員総会ご案内/冬季支援募金の報告/会費、サポーター費納入のお願い/編集後記)
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Charming Times No.27 (PDFバージョン)
– 特集 –
CHARM これからの20年
松浦基夫(理事長) 武田丈(副理事長)
CHARMが活動を開始した2000年頃の日本社会には、海外から来日した多くの非正規労働者が働いていました。この人たちは在留資格がなかったため、保険に加入できず、入管に捕まり国に帰らされることを恐れていたので、相談に出向き、病院に行くことができませんでした。言葉もわからずどこに相談したら良いかもわからなかったためギリギリまで我慢して、重篤な状態となって病院に運び込まれた時にはエイズを発症していました。その人たちに出会ったカウンセラー、ソーシャルワーカーが中心となり、この状況に対応できるためには何が必要かを検討しCHARMを立ち上げました。最初の構想は、保険がない人でも診療できるクリニックでした。2002年に団体を設立してから23年が経ちました。
この間CHARMでは多くの人が出会い、関わり、エネルギーを投入してHIV陽性者と外国籍の人たちが必要としていることに寄り添いながら人々が必要とすることに対応する事業を始め、続け、役割が終えたものは終了しました。
HIV診療を中心に支援体制を構築してきたCHARMは、関西圏の保健所、近畿のみならず各地のエイズ拠点病院に認知される存在となり、海外から移住してくるHIV陽性者の多くの支援に関わる現在その範囲はさらに広がっています。HIV治療は薬の開発により身体への負担が軽減され継続しやすいようになりました。また日本に暮らす外国籍住民の数は毎年過去最高を更新しており、今後もこの傾向は変わらないと思います。
今後も継続して移住HIV陽性者が安心して、日本でHIV治療を継続できるための支援を続けていきます。また日本に暮らす人の中にも単身高齢者、薬物依存症から回復しつつある人たち、女性などの主流に含まれない人たちが直面する問題は公的支援の範疇(はんちゅう)では対応できないことが多くCHARMがピア(仲間)による相互扶助体制を築く場を継続して行います。
医療の進展が目覚ましかったこれまでの20年間ですが、社会の中では感染症に対する無理解と外国人やセクシュアルマイノリティーに対する差別は繰り返し起こっており、自分と違うものを排除しようとする傾向は時代を超えても次の世代にも生まれています。CHARMは、これからの20年は、これまでの医療活動に加えて一般社会への働きかけを大胆に始めます。CHARMは、2024年(*1)、2025年(*2)と続けて賞をいただいたことが社会に開かれる道を開きました。
CHARMでは、2024年10月と2025年1月に2回の理事会を拡大会議として事務局と合同でこれからのCHARMについて検討を行なった結果、以下のことを決定し、6月7日の会員総会に提案することが決まりました。
- 1) 20年間力を入れてきたすべての人が安心して医療にアクセスできる社会への働きは継続しながら、一方では社会で変わらない偏見と排除の課題に取り組み実行する。これまで力点を置いてきた「支援」から「協働」に役割を移行する。
- 2) 労働現場として健全な財政基盤を確立するため収益事業を増やす。
- 3) 理事会を共同代表体制にし、多様な背景を持つ理事を増やす。
- 4) 社会への働きかけという新たな分野が活動に加わることから事務局員1名の雇用を実現する。
差別と排除を乗り越える働きの最初として、CHARMは2025年度に3回シリーズの研修を行います。差別と排除に医療、外国人、家族主義という3つの側面から光を当て、それぞれの角度から見えてきたことをもとに多様な背景を持つ人たちと話し合い、差別と排除の根について話し合うことを通して理解を深め、組織や個人のネットワークを築くことを目的としています。この研修は、CHARMがフィッシュ財団から受けた賞金の1/3を活用します。 研修の詳細は4月からCHARMホームページで公開予定です。

*1 フィッシュファミリー財団 Champion of Change Japan Award 2024大賞 2024/10/17
*2 第24回大阪弁護士会人権賞 2025/3/1
– CHARM活動レポート –
●レポート1:受賞報告
① チャンピオン・オブ・チェンジ2024年日本大賞(CCJA)
事務局長の青木がフィッシュファミリー財団のチャンピオン・オブ・チェンジ2024年日本大賞(CCJA)を受賞しました。
「CCJAは、女性のちからで誰もが安心して平等に暮らせるインクルーシブな社会をめざし、勇気を持って行動を起こす草の根の女性リーダーに贈られる賞です。2024年は212通の推薦応募の中から社会活動解決のために活躍する女性リーダー5名が入賞し、10月17日に大賞の発表と受賞式が東京で行われました。」(*1)
フィッシュファミリー財団は、アメリカ マサチューセッツ州ボストンに拠点を置き、ボストン地域の移民、低所得者層の若者支援、日本の女性リーダー養成を主な活動とした財団です。創設者は、厚子フィッシュと夫のラリーフィッシュ。厚子さんが2013年にオバマ大統領からChampion of Change賞を受賞したことがきっかけとなり、日本の女性リーダーを励ますCCJAを2017年に創設しました。

今回この賞に事務局長を推薦したのは、CHARMの創設者の一人である榎本てる子さんの古い仲間です。CHARMの働きを尊いとずっと感じてくれていた彼女がCHARMに光が当たるチャンスを作ってくれました。この賞はCHARMにつらなる全ての人に与えられた賞です。この世にいる人も向こうにいる人も。
*1 https://jwli.org/championofchange/
HP掲載リンク: https://www.charmjapan.com/2024/11/jwli2024/
② 大阪弁護士会第24回人権賞
大阪弁護士会が人権擁護活動を行う団体に贈る人権賞にCHARMが選出されました。大阪市生野区で活動するコリアNGOセンターとのW受賞でした。3月1日に大阪弁護士会館にて授賞式が行われ、理事・スタッフともに出席しました。
審査に当たった外部有識者の方たちからはCHARMが「誰一人取り残すことのない社会を目指して地道な活動を行ってきたこと」「近年ではIT通訳が普及してきているが23年前から対面での医療通訳を行ってきたこと」「他機関とのネットワーク構築を進めていること」「HIVやセクシャルヘルスというスティグマを伴う課題に長年地道に取り組んでいること」などを評価していただきました。
人権の専門家である弁護士団体よりCHARMの活動を評価していただいたことは大変名誉なことだと感じています。次の20年も「人」を真ん中に一番大切にしながら、誰もが暮らしやすい社会を目指して活動を続けて行きたいです。

HP掲載リンク: https://www.charmjapan.com/2025/03/250301osakajinkenshou/
③ 第38回日本エイズ学会ポスター発表報告(スタッフ:竹野)
2024年11月28日から11月30日に東京で開催された第38回日本エイズ学会にて「来日するHIV陽性者が治療を継続できるために必要なこと」というテーマでポスター発表を行い、有難いことに優秀賞をいただいた。仕事や勉強のため日本に移住するHIV陽性者の中には制度の壁により治療の継続が危ぶまれる人がおり、CHARMはこのような人たちがこぼれ落ちてしまわないようにサポートをしている。このテーマは2024年6月のCHARMの総会や同年2月に実施した20周年記念国内フォーラムでも取り上げていた。今回のエイズ学会が、移住するHIV陽性者の抱える課題について理解を示し、またCHARMの実践について評価をしてくださったことに改めて感謝したい。これからも最前線の現場で活動する者として、責任を持って社会に情報を発信していきたいと考えている。

ホームページに発表内容を掲載しておりますので、下記のリンクからご覧ください。
HP掲載リンク: https://www.charmjapan.com/2024/12/38gakkaiposter/
●レポート2:2024年度医療通訳研修
2024年度CHARMの医療通訳研修は「在留外国人に対するHIV検査や医療提供の体制構築に資する研究」からの委託を受け、以下のように4回にわたって実施し、延べ68名が参加しました。
・第1部 2024年9月23日開催
1.HIVの基礎知識、
2.結核の基礎知識、
3.HIV検査の流れ、
4.用語集についての説明、作成支援

・第2部 2024年10月19日開催
1.用語集作成の説明、
2.用語集(グループワーク)、
3.通訳練習:クイックレスポンス、リプロダクション、ノートテイキングそれぞれについて講師が説明後、グループに別れて練習、
4.通訳者交流
・第3部 2024年11月4日開催
1.HIVに関係する保健医療制度、
2.結核に関係する保健医療制度、
3.外国籍住民が利用できる保健医療制度、
4.理解を確認するためのテスト及び、回答内容から不足している知識のフォロー、
5.医療通訳の倫理と役割、
6.遠隔通訳
・第4部 2024年12月7日開催
1.HIV検査時、結果返し(陽性告知)場面での受検者と保健師の間の通訳(ロールプレイ、ベトナム語/ミャンマー語/インドネシア語)、2.通訳困難場面での対処方法
研修全体の目的を多様な言語に対応できる人材を養成するために日本語以外の言語を母語とする人々が参加しやすいプログラムとし、実務的な目的を医療用語集の作成と、継続的な単語の追加など更新を習慣にしていくことしました。提出された医療用語集は充実した内容のものが多く、用語集がロールプレイの助けになったことは作成しなかった参加者と作成した参加者の評価の差という形であらわれました。研修終了後、受講者の中から5名の通訳登録が完了し、今後も登録作業を進めていきます。
2025年度以降もHIV陽性者向け医療通訳研修を実施する予定です。CHARM医療通訳登録するためにはこの研修を受けていただく必要があります。登録ご希望の方は研修参加へのお申し込みをお願いします。詳細は今後、HPにてお知らせいたします。よろしくお願いします。
– CHARMERの紹介 –
今号のCHARMERのみなさん
CHARMERの皆さんを紹介するコーナーです。CHARMERとは日頃からCHARMに関わってくださっている会員、サポーター、当事者、そして事業に関わってくださっている全ての方々の総称です。
次はCHARMERのあなたにもお願いするかも知れません。その際はぜひご協力ください。
● 紹介項目
お名前
(1) CHARMとの出会い
(2) CHARMでしていること
(3) CHARMに関わってよかったこと
(4) 今後どのように関わっていきたいか
(5) 好き、またはおすすめの食べ物/本/その他
(6) CHARMへの思いや、他のCHARMERのみなさんへの一言!
今回のCHARMERは下記の3名です。ご協力、ありがとうございます。
- 中萩エルザ (なかはぎ えるざ) さん
- たーくん
- Awa (あわ) さん
① 中萩エルザ (なかはぎ えるざ) さん

(1) CHARMとの出会い
(答) 当時理事であった外国人の方(帰国理由で)からお招きいただいて、CHARMの理事になりました。ポルトガル語、スペイン語、英語の医療通訳として活動していましたので、CHARMからお声をかけて頂き相談員にもなりました。
(2) CHARMでしていること
(答) ポルトガル語、スペイン語、英語の医療通訳として患者の同行や相談をしています。
(3) CHARMに関わってよかったこと
(答) 人とのかかわりを持てたことです。
(4) 今後どのように関わっていきたいか
(答) 医療の知識を広めて、性教育だけでなく健康に関して皆様と一緒に考えていきたいと思います。
(5) 好き、またはおすすめの食べ物/本/その他
(答) 和食:寿司、刺身、筑前煮、魚の塩焼きなど。洋食:イタリア料理、ブラジル料理(パステル、フェイジャオ、フェイジョアダ、コシンシャ、エンパーダなど)、揚げ物、魚介料理。中華料理:餃子、フライ麺など。本:自己啓発。
(6) CHARMへの思いや、他のCHARMERのみなさんへの一言!
(答) HIV陽性者へのサポートをしながら、予防を重点においてそして、性教育、自分を大事にするということ、メンタルヘルスケアーも含め話の場(インターネットでもよい)を持って頂きたいです。ピアカウンセリングもいいかな?と思っています。
② たーくん

(1) CHARMとの出会い
(答) 25年ほど前からのつながりです。当時大阪医療センターに入院している時、担当看護師に声をかけられて、無料検査のお手伝いをすることになりそれがきっかけです。
(2) CHARMでしていること
(答) 現在は「つむぐ」に参加して2ヵ月に1度楽しみにしながら、集いに参加しています。
(3) CHARMに関わってよかったこと
(答) CHARMでは、外国人の手助けをしているところや通訳したりしている場面が、英語などできない自分としては羨ましくて、いいなーと思っています。また、いろいろな人と知り合って世界が広がった気がします。
(4) 今後どのように関わっていきたいか
(答) CHARMとの関わりとはあまり関係ないですが、自分は死んだ後、病院に解剖してもらうように希望しています。少しでも皆さんの役に立ちたいと思ったからです。
(5) 好き、またはおすすめの食べ物/本/その他
(答) 天長節が好きです。
(6) CHARMへの思いや、他のCHARMERのみなさんへの一言!
(答) 皆の病気のこととか考えてくれているところが好きです。自分自身も助けてもらっているし、CHARMとの繋がりで生きかたが違ってきた、「もう少し頑張ってみよう」という気持ちになったと思っています。
③ Awa (あわ) さん

(1) CHARMとの出会い
(答) I was looking for an opportunity to work with a program focused on health equity.
(機械翻訳:健康の公平性に焦点を当てたプログラムで働く機会を探していました。)
(2) CHARMでしていること
(答) At CHARM, I try to be as helpful as possible by supporting my coworkers in whatever ways I can. I pay attention to the team’s needs and step in where I can contribute, whether it’s refining speeches, providing edits and feedback, or assisting with outreach projects. More than anything, I see this as a learning experience.
(機械翻訳:CHARMでは、できる限りの方法でスタッフのみなさんをサポートすることで、できるだけ役に立ちたいと思っています。スピーチの推敲、編集やフィードバックの提供、アウトリーチプロジェクトの手伝いなど、チームのニーズに注意を払い、自分が貢献できるところに関わりたいです。何よりも、私はこの仕事を学びの場だと考えています。)
(3) CHARMに関わってよかったこと
(答) It has given me valuable exposure to how organizations work to shift the needle on health equity through advocacy, outreach, and support. It’s been eye-opening to see how dedicated individuals from diverse backgrounds come together to create meaningful change, and I’m learning so much from their expertise and collaborative efforts.
(機械翻訳:アドボカシー活動、アウトリーチ活動、支援活動を通じて、組織がどのように健康の公平性の向上に取り組んでいるのか、貴重な体験をさせていただきました。多様な背景を持つ献身的な人々がどのように集まり、意義ある変化を生み出しているのかを目の当たりにし、スタッフのみなさんの専門知識や協力的な取り組みから多くのことを学んでいます。)
(4) 今後どのように関わっていきたいか
(答) I want to remain connected to CHARM in any way that aligns with its needs and mission. Whether through direct involvement or from a distance, I see myself continuing to support CHARM’s work in whatever way I can. This experience has become an important part of my journey, and I don’t see a future where CHARM isn’t in some way a part of it.
(機械翻訳:私は、CHARMのニーズやミッションに沿った形で、CHARMとのつながりを持ち続けたいと考えています。直接的に関わるにせよ、遠くから関わるにせよ、どんな形であれ、CHARMの活動をサポートし続けたいと考えています。この経験は、私の今後の人生の重要な一部となり、CHARMがその一部とならない未来はないと思っています。)
(5) 好き、またはおすすめの食べ物/本/その他
(答) I love trying new foods and exploring local flavors wherever I go; there’s something exciting about discovering new tastes. I’m also a big fan of outdoor activities, whether it’s hiking or just being out in nature. And of course, I’m passionate about women’s empowerment, anything that highlights different stories.
(機械翻訳:行く先々で新しい食べ物を試したり、地元の味を探求したりするのが大好きです。また、ハイキングや自然の中で過ごすアウトドア・アクティビティも大好きです。そしてもちろん、女性のエンパワーメントや、さまざまなストーリーにスポットライトを当てるようなことにも情熱を注いでいます。)
(6) CHARMへの思いや、他のCHARMERのみなさんへの一言!
(答) To my fellow CHARMers, keep pushing forward and supporting each other, we’re making a real difference in ways that will last.
(機械翻訳:CHARMの仲間たち、これからも前進し続け、互いに支え合ってください。)
– NETWORK –
CHARMと関わりのある個人/団体・組織について紹介する当コーナー「NETWORK」。
今回は京都で活動されているメモリアル・キルト・ジャパン 代表・寺口淳子さんにお話を伺いました。
聞き手 : 竹野、三田 (CHARMスタッフ)
●メモリアル・キルト・ジャパン
CHARM(以下C):メモリアル・キルト・ジャパン(以下MQJ)の活動が始まったのはいつからですか?
寺口さん(以下寺):1990年11月です。アメリカ・サンフランシスコで始まったThe NAMES Project、AIDSメモリアル・キルトの展示を日本でもするということを雑誌で見かけ、世話人であった齋藤洋さんに連絡を取り一緒に準備をすることになりました。それがMQJ発足のきっかけです。翌年1991年春にアメリカから192枚のキルトを招き、第1回ジャパンツアーを開催しました。2ヶ月間、京都から福岡、広島、名古屋、金沢、松本、東京、仙台、旭川と全国9ヵ所をめぐり、この間に日本でもメモリアルキルトが作られました。展示を行った各地でもその後NGO/NPOが発足されました。

C:メモリアルキルトとはどういうものでしょうか?
寺:HIV感染症及びAIDSで亡くなった方たちを、単なる統計上の数字で表せるものではないという思いから、人がひとり横たわれる大きさ(90㎝×180㎝)のキルトにその人の名前や愛用していた衣服、小物類などを縫い付け、その人の生きた証を残すものです。キルトを作る時間は遺されたご家族やご友人の心を癒し、前に進む準備をするための時間にもなっています。薬害エイズの問題が和解するまでは裁判の支援も行っており、今も1年に一度和解集会が開催され、その会場でキルト展示を行っています。裁判を通じてご遺族の方と知り合い「キルトを作りたい」と仰ってくれた方もいます。私たちの仕事はそれぞれの思いが詰まったキルトを色々な人に見てもらうことだと考えています。また、私自身は看護師でこの職業に就いたときからずっとテーマは「ターミナルケア」です。それは最期まで、その人らしく尊厳を保ったままでいるためにどう関わることができるかという思いからですが、メモリアルキルトの活動と共通する部分があると感じています。
C:薬害エイズの裁判をそばで見ておられたのですね。
寺:当時は裁判がある日にホワイトキルトや赤瀬さんのキルトを持って大阪地方裁判所の周りを歩いたり近くでビラを配ったりして、道行く人に「今日裁判があるのね。頑張ってね」と声を掛けてもらったことを覚えています。

C:昨年12月CHARMのBook Clubで薬害エイズについて書かれた島本慈子著『砂時計のなかで -薬害エイズ・HIV訴訟の全記録-』を読みました。和解の恒久対策の一つとして感染経路を問わずHIV陽性者は身体障害認定を受け、医療費の自己負担を軽減する福祉サービスを利用することができるようになりました。このことについて、当時印象に残ったことを教えていただけますか?
寺:感染経路を問わないということは当事者の方たちが強調されていたことをよく覚えています。すでに薬害エイズ被害者の方たちは社会からのひどい差別を経験しておられました。薬害、性感染と差をつけることで新たな差別が生まれることは明らかでしたので、自分たちの影響で新たな差別が生じることは絶対に避けたいと仰っていたのが印象に残っています。
C:CHARMでも何度もお世話になっていますが、テディベア基金について教えてください。
寺:全国のHIV陽性者を支援するために1993年にテディベア基金を立ち上げました。
アメリカのキルトにはよくお見舞いとして送られたテディベアが縫い付けられていたことから、手作りのテディベアを販売しその収益を必要とされる方へ支援を届けています。立ち上げた当初は医療費に使いますという声が多かったですが、最近は生活費や活動費に使いますという声を多くいただきます。テディベアが繋いでくれた輪もあり、1年に一度必ず手作りのテディベアを届けてくれる方々もおられ、テディベアを作りながら地域でHIV/AIDSについて話す教育の場にもなっています。
C:本日は貴重なお話をありがとうございました。日本でHIV/AIDSの課題に取り組む際、薬害エイズ被害者の方たちの戦いの歴史を抜きにして取り組むことはできないと実感しています。これからも同じ関西で活動する団体として協働していけたらと思いますのでどうぞよろしくお願いいたします。
メモリアル・キルト・ジャパン ホームページ https://mqj.jp/
<訃報>
第25号Networkにて紹介した「ロカボ食べならHIVを知る会」のメンバーである長谷忠さんが、2024年11月10日にご逝去されました(享年95歳)。亡くなられる16日前、10月27日にdistaでMASH大阪とCHARMが共催したイベント「Beyond a Century ゲイとAIDS -当事者が語る1世紀-」が最期の講演となられました。
謹んでお悔やみ申し上げます。
https://www.charmjapan.com/charmingtimes/charming-times-no-25
– HIVと人々 –
●日本バプテスト病院
来住知美(きし ともみ) さん

みなさん、こんにちは&はじめまして!京都で内科医をしている来住です。私が働く日本バプテスト病院では2024年9月からHIVの診療を始めました。当院は比叡山の麓にあり、病院の窓からは、お盆の送り火で有名な大文字の「大」の字が目の前に見えます。小児科・産婦人科・外科などを備えた総合病院ですが、HIVを診療する全国の病院の中では割と小さい規模です。今日はなぜ私達のような小さな病院が、HIV診療を始めることになったのか、ご紹介します。
私は以前、大阪市内の拠点病院でHIV専門医として働いていました。そこで驚いたのは、遠方から受診される方々の姿です。他府県から数時間、車を運転して来院される方、さらには新幹線や飛行機に乗って泊りがけで来院される方もありました。元気なときは大丈夫でも、熱が出てしんどい日や、足腰が悪くなった時などは大変です。また、近くにお住まいでも「会社に休みを取りたいって言いにくくて…」と、治療と仕事の両立を悩む方にも出会いました。Futures Japanの調査によると、HIVと共に生きる人々のうち約90%が就労しており、職場の上司に病気のことを打ち明けている人は18%だそうです(*1)。こういった経験を通して私は、(ご本人が希望すれば)生活圏で、社会生活を犠牲にすることなく安心して相談できる診療体制を作りたいと思いました。
まず取り組んだのは、チーム作りでした。医師、看護師、薬剤師(病院の薬剤部と調剤薬局)、医療ソーシャルワーカー、医療事務らで集まり、診療体制を話し合いました。日本でHIVと共に生きる人々は、人口比0.02%とあまり多くありません(*2)。ほとんどの方が拠点病院に通院しているので、拠点病院以外の病院で働く医療者は、HIVと共に生きる人々に出会う機会が少ないのです。そのため私は、スタッフが障壁や偏見を持たずに診療にあたることができるか、少し心配でした。が、それは、まったくの杞憂でした。勉強会を開いたある日、ある看護師さんは「特別なことをしなくて良いってことですね」とさらりと言っていました。

現在当院では、京都大学医学部附属病院と連携しながら、医師2名で診療を行っています。エイズ治療・研究開発センター(ACC)で研修を受けた看護師さんも在籍しています。関西では土曜日に診療する病院が少ないと聞き、平日だけではなく土曜日も受診できるようにしています。まだ通院患者さんは多くありませんが、これからたくさんの方々に利用いただければと思っています。
これから取り組みたいのは、HIVを知るプライマリ・ケア医を増やすことです。HIVと共に生きる人々は動脈硬化が進みやすく、脳卒中や心筋梗塞などを起こしやすいことがわかっています。これらの疾患を予防しながら元気に長生きするためには、糖尿病、高血圧、脂質異常症(高コレステロール血症)などを良い状態に保ち、タバコを吸わないでいることが重要です。こういった予防医療はプライマリ・ケア医の得意分野ですので、HIV診療医と上手く連携できると良いと考えています(*3)。実際に2022年から毎年、大阪の白野先生、奈良の宇野先生、東京の塚田先生ら全国のHIV専門医と、日本プライマリ・ケア連合学会で勉強会を開催していて、とても盛況です。全国どこに住んでいても、何歳でも、どの国の出身でも、HIVと共に生きる人々が安心して医療と福祉を受けられるように。CHARMの目指す世界を応援しています。
さいごにCHARMERのみなさんにご近所スイーツをご紹介します。病院近くの白川通では、オオマエのアップルケーキ、喫茶ドセイノワのクッキーがおすすめです。京阪・出町柳駅あたりには老舗の阿闍梨餅、出町ふたばの豆大福があります。また阪急・京都河原町駅あたりでは梅園のみたらし団子、鍵善良房のくずきりも美味しいです。京都にお立ちよりの際は、ぜひ試してみてください!
日本バプテスト病院
住所:京都市左京区北白川山ノ元町47
URL:https://www.jbh.or.jp/
*1 Futures Japan、第3回調査結果、https://survey.futures-japan.jp/result/3rd/
*2 エイズ動向委員会、令和5(2023)年エイズ発生動向年報(1月1日~12月31日)、
https://api-net.jfap.or.jp/status/japan/nenpo.html
*3 横幕能行、日本のエイズ治療の拠点病院における抗HIV 療法の優れた治療成績、保健医療科学 2023 年 72 巻 2 号 p. 98-109
– Health –
●マイナ保険証の利便性とリスク
青木理恵子
1. 保険証は廃止?
2024年秋頃から「ご注意ください!12月2日から現行の保険証は発行されなくなります。」という通知が届いて驚いている方も多いと思います。それと共にマイナ保険証への切り替えが掲載されている案内にマイナ保険証に切り替えなければならないと理解した方も多いことと思いますがそうではありません。
通知の意味は、2024年12月2日以降は、健康保険証という名称のカードは発行されませんという意味です。
厚生労働省が配布したこの資料を読むと以下のことが書かれています。
1) 現在使用している保険証は有効期限までそのまま使えます。
2) 現在使用している保険証の期限が切れた後は「資格確認証」が発行され、これまでの保険証と同じように使うことができます。資格確認証の有効期限は5年で更新もできます。「資格確認証」は自治体がマイナ保険証に切り替えていない人全員に自動的に送ると厚生労働省は発表しています。
3) マイナ保険証に登録することでメリットを厚生労働省は次のように説明しています(*1)。
そもそもマイナ保険証が何か不明な方は厚生労働省のホームページを見てください。
①「データに基づくより良い医療を受けることができる」
②「高額療養費限度額を医療機関がわかるので手続きなしに制度利用ができる」
2. マイナ保険証を使用して受診する場合の手順
① 受付でマイナ保険証の提示を求められるので保険証をカードリーダーで読み込みます。
② パスワードか顔認証を求められます。
③ 自分の医療情報を医療機関に提供するかどうかを聞かれますので「同意する」「同意しない」を選びます。個人の医療情報とは過去に受けた医療に関する履歴全てを含みます(*2)。同意した先の医療機関の医師及び関係職員は、同意した人の過去の医療情報を同意24時間に限って見ることができます。医療機関は毎回受診前に本人の同意を求めて閲覧します。毎回受付で同意を求められるので受診する人は慣れてしまい、同意することがどのような意味を持つのか考えなくなるかも知れません。外国人の場合は、受付のカードリーダーが日本語でしか書かれていないため内容がわからないまま言われた通りに「同意」を選んでしまうこともあります。
実際に情報提供に同意したことで、HIV診療や薬の情報を確認した歯科医師が通訳を兼ねて同席していた友人の前でHIV診療について情報開示をしたことで、知られたくない人に病気のことを知られてしまったという相談がHIV陽性者の方からありました。
3. 自分の医療情報を他の医療機関に提供したくない場合
① マイナ保険証を利用して受診する際に医療情報の提供をするかを聞かれた時に「同意しない」と答える。情報提供に同意しなくても診療を受けたり薬を買うことは可能です。
② マイナ保険証を持っていても資格確認証を使うこともできます。マイナ保険証は、通信インフラの利用を前提としているので災害時に電気がない時にはアクセスできないなど制限があるため手元に資格確認証を持っていると安心です。
③ マイナ保険証の登録を解除する。利用の安全に不安を感じる方は、保険組合/国民健康保険課の窓口で申請書に記入の上、登録解除手続きを行うことになっていますが、保険加入元に確認してください。(*3)
4. マイナ保険証と個人情報
マイナ保険証は、マイナンバーカードに保険証機能を追加したものです。
マイナンバーカードの本来の目的は行政機関内で個人の情報を共有することで行政手続きを効率よく行うこと、特に納税を円滑に進めるために導入されました。最初の時点では民間利用は行わないとしていましたが、マイナ保険証が導入され、マイナ運転免許証も推進され、民間利用は拡大しています。自分の情報を守るためにシステムの内容を理解し、行動を選択することが必要です。
*1 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08277.html#kokumin1
*2 医療の情報は機密性が高い個人情報であるためこれまでは、1)手術、2)診療/薬、3)検診のどれかを開示する3択同意と、全てをする一括同意を選ぶことができました。しかし2024/10/7から全てに同意する一括同意のみになりました。
*3 https://hodanren.doc-net.or.jp/info/news/240228_maina_cancel/
<やさしめの日本語>
マイナンバーカードを健康保険証として使うかどうかはあなたが決められます。
・2024年12月2日から新しい健康保険証が作られなくなりました。
・今、もっている健康保険証は有効期限まで使うことができます。
・マイナンバーカードを健康保険証として使わない場合、使いたくない場合は、これまでの健康保険証と同じようなもので、「資格確認症」というカードが作られます。これまでと同じように診療を受けたり、薬を買うこともできます。
・マイナンバーカードを健康保険証として使うことで、医療機関があなたのこれまでの日本での医療情報を確認することができますが、カードリーダーでの操作によってそれを断ることもできます。
・これまでの情報を開示しなくても、あなたは診療を受けたり、薬を買うことができます。
・マイナンバーカードを健康保険証として使うかどうかはあなたが決めることができますので、このシステムについて正しく理解し、あなたがどうしたいかを決めることができます。
– 事務局から –
●CHARM2025年会員総会ご案内
2025年度の会員総会は、2025年6月7日(土)14:00〜 開催予定です。終了時間、会場、内容などの詳細については、追ってお知らせします。
設立25周年になる2年後(2027年)、今から5年後(2030年)、10年後(2035年)に理想とする社会の青写真を描きながら、活動を継続していくためにどのように変わっていくか、皆さんと考え、共有していく貴重な機会です。
ぜひ、ご予定に入れてください。

●「つなぐ・まもる・つむぐ」冬季支援募金2024 報告
外国人受診時の医療通訳希望増加に伴い、昨年末から緊急にお願いしました冬季募金は現時点で33名、合計573,000円となりました。
このご寄付は全額医療通訳のために用いさせていただきます。
現状を知って、多くの皆さまにご支援いただき、心より感謝申し上げます。
●2024年度CHARM会費、サポーター費納入のお願い&CHARMサポーターを募集中!
4月から新年度を迎えます。CHARMは本格的に認定NPO法人の認定を受ける準備を進めます。認定NPO法人は、サポーターをはじめ、広く一般から寄附を受けるなどの支持を受けていることが重要なポイントの一つになります。
会費、サポーター費は年度ごとに一回納入をお願いしています。
サポーターA/BはCHARMに相談することなく、毎年自由に変更することができます。納入時にAかBを明記してください。
・正会員¥3,000
・サポーターA¥3,000
・サポーターB¥5,000
・団体サポーター 1口¥10,000
5月に総会案内、事業報告書ダイジェスト版とともに振込用紙をお送りしますが、ホームページでご確認の上、銀行口座、コングラント経由からの納入も可能です。
https://www.charmjapan.com/join/supporter/
なお、正会員からサポーターへの資格変更、退会を考えている方は、その旨、ご相談ください。
※クレジットカード決済は「コングラント(congrant)」経由で会費・寄付をしていただけるようになりました。
ご都合のいいお支払い方法を選んでください。
2025年度もサポーター費、ご寄付を通して、CHARMの活動をお支えくださいますよう、よろしくお願いいたします。
●編集後記
「誰も安心して安全に自分らしくくらすことができる社会の実現」をずっと目指しているが、「活動レポート」では2024年、2025年に複数の賞を受賞し、CHARMが取り組んできたことが評価され、事務局の一員としてうれしく、そして少し勇気をもらったと感じています。「特集」では今後、一般社会への働きかけを大胆に始めるということで、時代とともに変化していくCHARMも楽しみです。あっ、京都に住んでいますが、「HIVと人々」の日本バプテスト病院の来住先生がご紹介してくださったオオマエのアップルケーキがとても気になっています。(P)